家庭内暴力法の悪用

7月4日にヴィディヤー・バーラン主演の「Bobby Jasoos」が公開された。現在、ヒンディー語映画界で最も演技力のある女優であるヴィディヤーは、「Ishqiya」(2010年)、「The Dirty Picture」(2011年)、「Kahaani」(2012年)などでパワフルな女性キャラを演じて来ており、男優中心の映画界において、集客力を持った女優として独自の地位を築き上げている。「Bobby Jasoos」では女性探偵を演じている。

 「Bobby Jasoos」でヴィディヤーが演じた女性探偵にはモデルがいる。ラジャニー・パンディトという名前で、ムンバイー在住である。6月25日付けのデリー・タイムス紙(タイムズ・オブ・インディア紙デリー版サプリメント)に彼女のインタビューが掲載されていた。

 

 興味深いのは、なぜ彼女が探偵になったのか、というきっかけだが、どうやら父親が犯罪捜査局(CID)の警察官で、まずはその影響が強いようだ。その内、探偵ごっこのようなことをするようになり、友人・知人の問題を解決している内に探偵になることを決意したと言う。たまたま新聞編集者を助けたことがあり、それがきっかけで新聞にインタビューが掲載され、一気に知名度が高まって、探偵として食べて行くことが可能になったそうだ。現在47歳。探偵業を初めて既に25年になる。

 ただ、日本の探偵などと同様に、依頼される仕事の8割は浮気調査だと言う。しかも、依頼される浮気調査の内の8割は「黒」の結果になるらしい。以前は男性の浮気を調査する依頼の数が多かったのだが、最近は半々になっていると言う。

 彼女の発言の中で特に気になったのは、女性が家庭内暴力法を悪用して男性を脅すケースが非常に増えているという部分であった。引用する。

80% cases are about people having affairs out of which 75% are investigating people who are married and having affairs outside their marriage. The surprising part is that of the cases we get, about 80% turn out to be true. I see women who are pregnant from an earlier lover and she will threaten her husband that in case he speaks up, she will report domestic violence that will put him behind bars. And earlier while we used to find more men having affairs outside, today an equal number of women are also having an affair and misuse the law for domestic violence which is currently very one sided favouring women…

 インドの社会は基本的に男尊女卑なので、女性の人権を守るために各種の法律が整備されている。一方で法律の存在や有効な活用法を知らない女性が多いことでこの問題がなかなか解決されないのだが、他方でこれらの法律が女性に一方的な権限を付与しているため、非常に悪用されやすいという問題もある。つまり、離婚や破局によって男女が別れる際、女性が報復のために家庭内暴力や強姦などの濡れ衣を男性に着せて、多額の賠償金をむしり取ったり、男性を牢屋送りにしたりするケースが後を絶たないのである。

 元々はインド刑法(IPC)第498A条がかなり一方的に女性に強い権限を与える条文として知られていた。妻に対して「残酷な行為」をした夫や夫の親族が処罰の対象となっていた。この「残酷な行為」には、肉体的な虐待から精神的なハラスメントまで様々な行為が含まれた。特にダウリー(持参金)絡みの脅迫や犯罪に適用される条文であった。

 だが、以前は男女が同居するのは結婚を前提としなければあり得なかったが、現在は婚姻関係を結ばずとも同棲するカップルも現れ、その中で女性に対する暴力も発生するようになった。そんな時代の変遷に対応するために、2005年に「家庭内暴力からの女性保護法(Protection of Women from Domestic Violence Act)」が制定され、2006年から施行された。この法律は、夫はもちろんのこと、女性と同棲関係にあった男性に対しても適用される。また、婚姻関係やそれに準ずる関係のみならず、姉妹や母親など、家庭内に同居するあらゆる女性が保護の対象となる。

 これらの法律に共通するのは、暴力やハラスメントを受けたと主張する女性の言い分がまずもって正しいとされる点である。女性はただ主張すればそれが証拠として通る。もし事実関係を争おうと思ったら、男性が潔白を証明する証拠を揃えなければならない。特に精神的なハラスメントは主観に左右されるものであるし、暴力をしていないことを証明するのは「悪魔の証明」と同様になってしまうこともあり得る。また、ダウリーを含む女性に対するハラスメントは義母などの女性メンバーが行うことが少なくないのだが、これらの法律は女性に対する女性の暴力を防いだり罰したりする力を持っていない。当然、女性が家庭内において男性に対して行う暴力は全く考慮されていない。

 このような問題は前々から指摘されて来ており、女性治安問題に関して政治家たちがよくする失言---例えばムラーヤム・スィン・ヤーダヴの「男は男、間違いを犯してしまうものだ」---などにもつながって来ると思うのだが、残酷な仕打ちを受けている女性が多いこともまた事実であり、少数のケースを見て何かを言うのは難しい。ただ、女性探偵が、25年の経験の中から、女性が家庭内暴力法を悪用するケースが増えていると語っているのならば、それはかなり事実に近いと言えよう。

 インドで悪名高きダウリー殺人についても、全てではないが、しばしば同様の構造が裏にあるようで、深く調べれば調べるほど、それ以上足を突っ込めなくなると聞いたことがある。インドは知れば知るほど何も言えなくなるとは、よく言ったものである。

Print Friendly, PDF & Email
2014年7月8日 | カテゴリー : ブログ | 投稿者 : arukakat